2023-11-26
ところで、「予期しない思い出」にはもう一つありまして、今回の旅行では、「紅葉」とはまったく別の予想外の出来事に遭遇しました。
実際のところこれは、かなり“痛い失敗談”でもありますが、その出来事は、11月25日土曜日、同窓会の2次会も終わって、解散したあとに起こりました。
JR博多駅から、終電一つ前の電車に乗って、南へ30分ほどの二日市駅で降りるつもりでした。ですが、ちょっとした酔いと眠気のために、なんと、自分でも驚きですが、吊り革につかまったまま、ひと駅乗り過ごしてしまったのです。
「はっ」と気づいて、つぎの駅で降りたのですが、時間の関係から反対路線の上り電車は通り過ぎたあとでした。つまり、ふた駅も離れた所で午前零時過ぎに降りて、数時間あとの明け方まで電車では戻れない情況になってしまいました。
しかも、まわりが暗いだけでなく、ここらあたりはまったく土地勘がありません。タクシーは停まっていないし、最寄りのタクシー探し当てるとしても時間がかかるだろうし、はたして来てくれるかどうかもわからない。
となると、便りになるのはスマホのナビ機能だけです。幸い、ホテルの名前は覚えていたので、そこを目的地に設定したところ、すぐにルート表示が出ました。北へ約6キロの道のりがあります。
「よし、6キロていどなら1時間半ていどで帰れる」と思って、ナビの案内するルートを歩きはじめました。ですが、歩きながら気づきました。
ナビ画面に所要時間が10数分と出ているとおり、案内されたルートは車で移動するためのものでした。でも、まったく土地勘がないので、とりあえずその案内に従うしかなく、駅付近の住宅街を抜けたあとは、中央分離帯のある高規格道路(いわゆるバイパス道路)の歩道を歩くことになりました。
真夜中に、こんな大きな車道の脇に設けられた人気のない歩道を、とぼとぼと歩く心細さといったらありません。
所どころでほの暗い路側灯に照らされている歩道をそのまま進んでゆくと、つぎにナビが案内した車道は、歩道はいちおうあるものの、ただただ車が疾走するだけの高架式の道路でした。
そんな道を人が歩くなんてちょっと考えられません。なので、途中の側道から一般の市道へと降りたほうがいいと判断しました。
そして、一般道へ早足で降りはじめたときでした。暗がりの中、なにかに足が引っかかったらしく、突然、前方に激しく転倒しました。激しく倒れたので、すぐに立ち上がることはできなかったのですが、 不幸中の幸いとはこのことを言うのでしょうか、怪我は左右の掌の一部を擦りむいた程度ですみました。
そのあとは、気を取りなおして、ナビの案内を振り切りながら、あえて暗くて狭い道を歩くことにしました。ときどき現在位置をチェックしては進む方向を確認しながら、真夜中のまったく知らない所を縫うように、でも背筋をぴんと伸ばして気持ちだけは気丈に保ちながら、ひたすら歩き続けました。
ナビの案内ルートは参考にしかなりませんが、現在位置と進行方向の確認は欠かせないので、残りの距離数を見ながら、午前1時すぎの、まったく知らない暗い夜道を足が棒のようになるのを感じながら、ただただ帰るべきホテルを目指して歩き続けました。
こうやって1時間半ほどすぎたとき、深夜営業のコンビニの明かりが道路の先に見えました。その店の明かりを目にしたとき「あ、助かった…」と思いました。
でも、ホテルに帰り着いたわけではないので、ここで気を抜くわけにはいきません。
棒のようになった足を半ば引きずりながら、ようやくそのコンビに到着すると、まずはパンと牛乳を買いました。体力を維持するためにはなにかを食べないといけません。傷ついた両手の平をかばうように商品をもらうと、パンをかじり、牛乳を飲みながら歩きはじめました。
歩きはじめて1時間半あまり。ホテルまでの道のりは残り2キロていどになっていましたが、時間はもう午後2時になろうとしています。丑三つ時
(うしみつどき)のウォーキングです。
年配のおっさんといっても、こんな時間の一人歩きは安心安全とは言えないですが、幸いなことに、ホテルに近づくにつれて、一般道路でも幅が広くて街頭もあるので、残り2~4キロ地点の薄暗い道いりもずっと“安全”な印象はありました。
歩きながら腹ごしらえと水分補給をして、移動を続けていると、どうにかこうにかホテル近くの、見覚えのある市街地までたどり着くことができました。もう、足は棒の状態ですが、それでもホテルを目指して歩を進めなければなりません。ホテルまでの道のりが約1kmになったとき、時刻は午後2時になろうとしていました。
「やっとここまで来た。あと少しだ」と思ったとき、全身に疲れを感じるようになりましたが、ここで休憩するわけにはいきません。残りの数百mは歯を食いしばる感じで歩き続けて、ご縁2時30分ちょっと前に、やっとの思いでホテルにたどり着くことができました。
「あぁ、助かったぁ…」
そのときわき起こったこの思いだけが、それまでの披露と不安と苦痛を慰めてくれました。
ホテルの玄関ドアは開いていたので、エレベーターに乗って部屋に直行すると、すぐにお風呂を湧かして、両手を濡らさないよう気をつけながら、ながながと湯船につかっていました。
そして、とりあえず疲労感を癒したあとは、ベッドに倒れ込むように寝入ってしまいました。
翌朝は、7時過ぎには起きることができたので、ストレッチをして体をほぐしたあと、チェックアウト期限の11時まで休息することなく、やや早めの9時50分には出発することができました。
ということで、とんでもない出来事に遭遇しましたが、だれのせいでもなく全部自分のせいでおこってしまった、いわば“試練”のようなものでした。
実際の歩行距離は、ルートのまちがいもあったので、実質7kmはあったと思われます。そしてこの道のりを、真夜中に2時間20分ほどかけて歩いたことになるようです。
「いやあ、まいったまいった」な話ではありますが、この“情けない”経験で3つのことを学ぶことができました。それは収穫といえます。
それは(1)自分の体力がまだまだ健勝なこと、(2)短時間なら電車の中で立ったまま眠れそうなこと、(3)この国の深夜は今でも基本的に安全な印象がある……ということです。
それから、スマホのナビ機能があったので、自力で生還できたことも極めて大きいですね。これも、今回の学びの一つと言っていいかもしれません。