2022-01-29 吉村昭の『海の祭礼』を年末から年始にかけて一気に読んだ。歴史資料を物語風につなぎ合わせたような作風だけれど、時おり見せる具体的な描写がきらきらと光を放っていて、小説家としての作者の筆力が充分にうかがわれた。
この作品は、幕末期の二人の主要な人物を中心に、たくさんの人びとが登場しては去ってゆく歴史長編小説だが、読み進んでゆくうちに、しだいにその世界に引き込まれていった。
読了直後は、読み通した満足感とともに、浸っていた物語世界との惜別からくる独特の、一種やるせない寂寥感を覚えた。そして、物書きのハシクレとして、自分もこのような大河小説を書いてみたいという衝動に駆られた。
その後も『海の祭礼』の影響はおさまらず、日がたつにつれて、無性に長編タイプの歴史小説あるいは時代劇小説を読みたくなっていた。
そこでまずは、さほど長くない
山本周五郎の『樅の木は残った』 を読もうと思い、古本を買おうとしたが、ふと、「
青空文庫」に出ているかもしれないと思い、覗いてみたら、あった。
文学愛好者でインターネットも使っている人ならだれでも知っている「
青空文庫」。ここでは、数多くのパブリックドメイン(著作権切れ)の文学作品が、TEXTベースのデジタルデータとして、無料で掲出されている。
『樅の木は残った』 の場合、ダウンロード用には、TEXTファイルベースのzipファイル1個とxhtmlファイル4個の2つのファイルタイプがあった。そこで両方ともDLして、4部作に対応した4個のxhtmlファイルのほうを「Perfect Viewer」でじっくり読むことにした。
ちなみに、このアプリはルビ付きの縦書表示にも対応している。ルビが小さすぎて見づらいので、10から16に変えたら、ストレスなく見えるようになった。
さて、この4部作を読み終えたら、
中里介山の大長編『大菩薩峠』 を1巻ずつ41巻まで都度都度DLしながら読んでゆこうと思う。
あと、
中勘助の『銀の匙』など数編と横光利一の 『
春は馬車に乗って』もパッド8に入れてみた。私淑する作家と好きな作品たち。 こちらも、上記の作品たちと並行して、じっくり読んでゆこうと思う。
ほかにも、読んでみたい往年の名作は山ほどある。ちなみに、著作権保護期間が2018年12月30日より、それまでの50年からさらに20年延長されることになったので、没年の翌年1月1日から70年にわたって保護されることになった。
参考サイト:
著作権の保護期間はどれだけ? 著作権って何? 著作権Q&A 公益社団法人著作権情報センター CRIC
なので、たとえば、以下の蒼々たる文人・芸術家の方々の著作物は、引き続き紙書籍で鑑賞することになる。それにしても、崇敬する三島由紀夫さんを筆頭に、すごい人たちの名前がずらりと並んでいる。
【1968年没】子母沢寛、広津和郎、藤田嗣治、【1969年没】伊藤整、獅子文六、【1970年没】大宅壮一、西條八十、三島由紀夫、【1971年没】内田百閒、金田一京助、志賀直哉、高橋和巳、徳川夢声、日夏耿之介、平塚らいてう、山下清、【1972年没】川端康成、平林たい子、【1973年没】大佛次郎、菊田一夫、山内義雄、吉屋信子、【1974年没】花田清輝、山本有三、【1975年没】角川源義、金子光晴、棟方志功、【1976年没】城昌幸、武田泰淳、檀一雄、福島正実、舟橋聖一、武者小路実篤
参考サイト:
三島由紀夫や志賀直哉、川端康成らの作品が青空文庫で公開されるのは20年先に - 窓の杜【1/30追記】
吉村昭の『海の祭礼』の影響は、まだ続いていて、上携の「青空文庫」掲出の作品たちでは飽き足らないので、本人の別の作品をとりあえず2冊購入することにした。
『間宮林蔵』と『羆嵐』
(くまあらし)。『海の祭礼』の最初の数章がそうであるように、この2作品の舞台にも北海道が登場している。とりわけ『羆嵐』は扱う内容から全編がそうだと思われる。しかもこの作品は、子どもの頃読んだ人喰い熊の話と同じ事件を扱ったもののようだ。さぞや怖いに違いない。夏になるまで読まないほうがいいだろうか…うーむ…。
【2/5追記】
きょうから、まず『間宮林蔵』を読みはじめた。『海の祭礼』と同じスタイルで、硬く重い文体だけれど、重厚感があって嫌いではない。でも、歴史資料を編綴したような、記録文を思わせる箇所が多いのには、若干辟易する。辟易するけれども、先へと読み進みたい、という気分に駆り立てるものがある。
つぎは何だろう。何が出てくるのだろう。何が起こるのだろう。どうなってゆくのだろう。そういう思いに常に駆り立てる、筆運びをこの作家は充分に心得ている。しかし、あからさまにそのことを強調して、読者に媚びることもない。物書きのハシクレとしてさすがだなと思わないではおれない。真似はしないけれど、このスタイルは自分のなかに取りこみたい。きっと自分なりのいい味が出せるはずだ。