2022-03-02 小説家になるハウツー本(笑) 著者は小説家として億を稼いでいるお方らしい。何作もTVドラマ化がされているベストセラー作家。さすがだね。この本のタイトルは、書くのがちょっと恥ずかしくなるけれど、
『小説家になって億を稼ごう』松岡圭祐(新潮新書)。
この本を読んでいて、あ…棲んでる世界が違うな、ということがわかった。たぶん、生きている世界線そのものがちがう。頭の硬い鈍重な自分にとってこの人物は、この1冊の本で交差しただけの人だ。
でも、これまで数多く読んできたこの種のハウツーものにはない、じつに今風な、映像メディアとの連携をつよく意識した小説作法が書いてあるが、けっこう参考になる。
ほかにも、著者自身の経験を踏まえた出版社への売り込み方法や心得など、なかなかおもしろいトピックが語られている。
著者の狙いとしては、いわるゆ“小説家”の数を増やして、物語を中心とした活字世界の裾野を広げ、そのことによって、ますます活躍の場を広げたい、ということのよう。なるほどね。
頭のなかで、登場人物が血肉化し、舞台背景がリアルな存在感をもつまで、あれこれと“こねくり回し”、人物主導の物語展開を引き出してゆく手法。
そのために、適当なポートレート写真とプロフィールをメモした紙片をプリントアウトして壁に貼り付け、充分に物語世界ができあがるまで、メモはいっさいとらずに、ましてや書き出しもしないで、彼ら/彼女らと“ともに暮らす”ことになる。
自分の場合は、プロフィール・ペーパーを壁に貼ることはしないけれど、すべて頭のなかで、その作業をおこなうことを、これまで以上に徹底する必要があることを、改めて学びなおした。とりわけ、すぐにメモりたがる癖は直したほうがよさそうだ。著者も言うように、可能なかぎりアイディアを、つまりは、登場人物たちを自由に泳がせなければならない。
そのためには徹底して空想し、ときには妄想もし、そして想像しつくそう。ただしその際、著者と根本的に立ち位置が異なるのは、自分の場合は、まずテーマ(=何について“物語る”のか)をかなりなていど明確にしないと、創作意欲を維持してゆけないことだ。
この「テーマ(≒ふとした着想から膨らんだ「書いてみたいこと」)」をどう登場人物たちに振り分け、プラスまたはマイナスのベクトルで「反映」させるか。そのことまで含めて、物語の世界観づくり(著者の言葉を借りるなら「想造」)を脳内で展開してゆくことになる。
そして、ここで脳内作業の「出来」が、仕上がった作品の「価値」を決めることになるけれども、この「見解」については、著者の考えと同じである。
で、著者は、彼の言う「想造」プロセスにおいて、「テーマ性」にすらこだわっていないということは何を意味しているかと言うと、それはただひたすら「エンタメ性」を追求しているということだ(断定^^;)。どうやったら読者(ひいては視聴者)の関心をかき立て、最後まで釘付けにできる物語が、この7人プラス5人の登場人物たちで展開できるか。そのために、彼はまず「想造」するのである。
さすが、ベストセラー作家。残念ながら自分には、性格よりもずっと深い気質レベルで、真似ができない。でも、その姿勢そのものは、この人の具体的なアプローチ法も含めて大いに参考になる。
「物語を創る/書く」ということは、紛れもなく表現行為なので、そうである以上は、でき上がった作品がより多くの人の目に触ることを願うし、手にとって、あるいはダウンロードしてもらって、自分の構築した作品世界に親しんでもらいたいと、率直にそう思う…。
ところで、登場人物をメイン7人とサブ5人と決める理由は書いてないが、どういう考えからだろうか? メインとサブの明確な線引きはあるのだろうか?
尋ねてみたい気もするが、TVドラマ向きのミステリー仕掛けな物語が得意のようなので、キャスティングを意識した登場人物の配列に好適という意味合いで、だいたい想像はつく。つまりは、TVドラマや映画化されやすい「お話」をつくろうぜ!というわけだ。わかりやすい(笑) そう、ベストセラー作家にはこの「わかりやすさ」が必要不可欠なのだ。私はその世界には棲めないが、理解することはできる。
いずれにしても、この本はよい刺戟と示唆を与えてくれた。税込み880円。これからも、この方の創作法については、創作の途中で何回か読み返しながら、自分の創作法の一部に取り込ませてもらうので、すでにもとは取れた。39〜♪
2022-03-05ところで、件
(くだん)のハウツー本
『小説家になって億を稼ごう』松岡圭祐(新潮新書)を読んでいたら、いくつかの箇所が極めて印象的だったので、以下に『』内を抜粋してみました。
『若者のみならず、全世代の「活字離れ」が指摘されたり、漫画や映像作品が表現手段の主流になるのを嘆いたりする声があります。しかしこれらは憂うべき状況ではありません』
『視覚的イメージがあふれる現代において、読書時に連想の手がかりは、誰もが目にするテレビ番組、配信動画、イラストや漫画に依存します。(中略)現代小説は、読者が視覚メディアを通じ、すでに獲得したイメージを利用しつつ、読者の脳内に物語を醸成していきます。(中略)映像のフィクションあるいはノンフィクションにより、読者はすでに視聴覚による無数のイメージを記憶しており、文章表現による描写に対し、具体的かつ明確に想起できます(中略)目に浮かんでくるような情景は、ほとんどが映像メディアの影響下にあります』
『時代は変わり、読者の映像的連想力をよりストレートに利用する小説も増えました。ほとんどのライトノベルはアニメを多く鑑賞してきた読者を対象としています。読者の脳内に、当人にとって理想的なアニメの世界観を具現化させるべく、あえて文章のみの示唆をもって、物語を伝達する手法ともいえます』
『視覚に訴えるイメージに対しては、誰もが受入れやすいのですが、言葉を解釈しながら脳内にイメージを描くとなると、万人に可能なわざではありません。これは慣ればかりではなく、また学力の優劣とも別問題です。あるていど生まれ持った性質であり、個人差があると考えられます。
読書も同じです。小説が好きには何の苦労もないことですが、読書は生来の才能の大きく依存します。能動的に文章を読み進めながら、受動的に内容を解釈せねばならず、しかもそれが楽しみや喜びにつながるとなると、けっして多数派にはなりえません。(中略)小説を読むことを楽しく感じる才能の持ち主は、極めて限定的なのです。(中略)文芸より映像メディアのほうが人気とされるのは、ビジネスの規模ではなく、対象者数の絶対的な差によるものです。
ふだん小説を読まないのに、流行に乗せられ本を買うだけの人は、実は微々たるものです。読書を楽しめない人は本を買いません』
『ある特定の小説家の顧客となりうる層は、どう頑張っても三百万人以下だと理解しておきましょう。(中略)家族全員が読書好きな家庭はもちろん存在しますが、誰ひとり読書を好まない家庭も、それ以上に存在するのです。貴方にお金を払ってくれる可能性のあるのは、最大でも国民の四十人にひとりだけです。残りの三十九人は、本質的に対象外となります。とはいえそれが誰であるかは、本が売れるまでわかりません』
このように、ベストセラー作家の視点は、時代に極めて敏感な、高感度のセンサーを自ずから備えていることがうかがえます。正直言って羨ましいほどの秀でた才能。不断の努力もあるのでしょうが、やはり、天性の才気を感じます。その意味においても、上記の抜粋は、非常に刺戟的であるとともに、極めて参考になる意見表明でもあります。あらためて、有り難うございます。
ところで、この本のリンクを取りにAmazonに立ち寄ったら、こんなのもあったので、笑えました(^^; なので、ついでにリンク貼っときます。
◎
『作家で億は稼げません』吉田親司(MdN) (@ amazon.co.jp)
ーー この本のレビューで、なかなか秀逸なのがあったので、さらにこれもリンク。
◎
途中から身の上話本になってしまっているのが惜しい <5つ星のうち3.0>
ーー このレビューを読んでいると、本書の内容がだいたいわかるので、古本でも送料込みだと新刊本ていどはする千5〜6百円だして買う必要はなく、図書館で借りて読めばいいていどの本のようだな。
…と思って、この地の最大図書館の横断検索をしたら、市立図書館に1冊だけあった。でも、貸し出し中のようで、予約状態になっている。しばらく行っていないので、春になったら浮かれ気分で行ってみようか。そのころにはあるだろう。